「こだわり」が決め手!熊谷・妻沼小島の大和芋が美味しい理由

皆さんは‘大和芋’をご存じだろうか?
熊谷の麦ごはんには欠かせない芋で、すりおろした‘とろろ’は箸で持ちあげられるほど粘りが強い。
熊谷市は、全国でも有数の大和芋の産地。
その中でも妻沼小島地区は、利根川の豊かな水と肥沃な土壌に恵まれ、大和芋の栽培に最適な環境が整っている。
そんな妻沼小島で大和芋を生産する‘あかいし農園’を取材。
こだわりの栽培方法や、大和芋の美味しさの秘密とは?その魅力をたっぷりとお届けする。

聞き手:牧野悦子さん(熊谷在住・野菜ソムリエ)

生産者・赤石正樹さん

妻沼小島地区は利根川の左岸と群馬県に接する熊谷市の最北部。
豊かな田園風景が広がる場所で、昔から農作物の栽培が盛んなエリア。
ここでねぎや大和芋を中心に農業を営むあかいし農園の赤石正樹さんにお話を伺った。
正樹さんは、地元生まれの農家の長男で小さい頃からなんとなく家業を継ぐことを意識していたという。
大学は農学部で自然環境の保全などを学び、卒業後は都内の花屋に就職。
ホテルなどのフラワーデザインを9年ほど手がけていたのだが、東日本の震災をきっかけに熊谷へ戻り農家を継いだ。
現在はスマート農業などを取り入れながら、よりよい大和芋の生産、農業の継続ができるよう日々の努力を怠らない。
物腰柔らかく話す正樹さんだが、大和芋や農業に対する想いを力強く話してくれた。

熊谷野菜 大和芋生産者・赤石正樹さん|晴れまちFARM
熊谷野菜 大和芋生産者・赤石正樹さん|晴れまちFARM

人となり

「直接お客様の声が聞ける農業がしたい」と話す正樹さんは、就農後、都内や県南のマルシェに参加し‘伝える’販売を始めた。
お客様と対話する中で、農薬や化学肥料についての関心が高いことに気づき、S-GAP※1 実践農場や特別栽培農産物の栽培にも取り組み、環境配慮型の農業を行っている。
また、自分の代になってからホームページやECサイトを立ち上げ、多くの方に妻沼の大和芋の美味しさを知ってもらえるよう積極的な情報発信をしている。
日々進化し、多角的に農業を盛り上げる若手農家のひとりである。

※1:S-GAP(埼玉県GAP)は、埼玉県が独自に定めた農業生産工程管理(GAP)の基準。
農薬の適正使用や衛生管理、労働環境の改善などの基準が設けられ、安全で高品質な農産物の生産を目指すもの。

赤石さんのこだわり ─ その1

妻沼小島地区は利根川氾濫の影響で細かい砂混じりの土壌。
水はけがよく、粘りが強い風味豊かな大和芋が育つと言われている。
「ここの土は野菜がよく育つ。柔らかくておいしい。」と正樹さん。
大和芋は収穫した芋から根元を切り、それを種芋として次の年に植えて育てるのだが、良い土でないと良いタネはできないという。
現在は ‘太陽熱養生処理’という太陽熱と微生物の発酵熱を使って地温を上げ、雑草や病害虫を処理する方法を採用し土壌を健全に保っている。
「晴天率が高い熊谷に適した方法なのではないかと思って…」と話すと、聞いていた取材陣全員がうなずいた。
また、畑を休ませたり、他の作物と輪作を行うなど畑に負担をかけない農業を行っている。

熊谷野菜 大和芋生産者・赤石正樹さん|晴れまちFARM

赤石さんのこだわり ─ その2

取材した2月の圃場は、大和芋の葉は枯れ、何もない畑に見える。
そこに正樹さんが鍬を入れると立派な大和芋が顔を出した。
一見硬そうに見える土は手に取ると布団のようにふかふかで、ほのかに温かい。
緑肥を敷き込み、土をやわらかくしているそうだ。大和芋はというと、まっすぐに伸びためん棒のような形である。
昔はイチョウの葉のような形が多かった気がするが、と問いかけると「最近は使いやすさから、ゴツゴツした形より、棒状の芋が好まれる。
味は変わらないが灌水の仕方で、まっすぐな形になるように調整している」と教えてくれた。
料理をする私にとってもまっすぐの方が使いやすいのは確かである。
また、土壌の水分を観測・調整し、安定した大和芋が収穫できるようスマート農業にも力を入れ、栽培技術も進化させていた。

語り合う赤石さんと牧野さん

熊谷で描く未来

大和芋栽培に力を入れる正樹さんだが「大和芋は野菜の中でも嗜好品で、食べる人が減っている。
重労働であるため生産者も減少傾向」と残念そうに話す。続けて「だからこそ、大和芋を多くの人に知ってもらい、美味しさを伝えたい。そして、効率化して大和芋生産を続けたい」と目を輝かせた。
今後は販路の拡大、熊谷のブランド野菜としてふるさと納税返礼品にもしていきたいと意欲を語る。多くの方にこの地でとれた極上の芋を食べて欲しい。

大和芋といえば‘粘りの強いとろろ’のイメージが強い。
そばやごはんにかけて‘さらさら’、いや、‘ずるずる’と流し込むのが定番ではないかと筆者は考えていた。
そこで、生産者が勧める大和芋の食べ方を正樹さんに伺うと「すりおろしたものは、すき焼きのたまご代わりに肉をつけて食べたり、鍋につみれとして加えふわふわの食感を楽しむのも良い」と教えてくれた。
つみれには粉類を使わずとも、団子にできるので大和芋本来の味を楽しめるとのことだ。
「定番のお好み焼きにいれると、ふわっふわで子供も大好きな一品になる」と笑顔で話す正樹さん。
湯気の立つ大和芋料理を想像しただけでみんな笑顔になった。
大和芋は滋養強壮に役立つ野菜として昔から重宝されてきたが、家族・食材をつなぐ野菜としても活躍している。
大和芋の収穫は冬で、お歳暮など贈り物の需要が高いが、乾燥させずに冷蔵庫で保存すれば1年中楽しめる野菜。
実際、周年出荷をしている。「今後は夏場の食べ方、使い方を広めて、暑い夏の熊谷を大和芋で元気にしたい」と熱っぽく話してくれた。
いつ食べてもおいしい大和芋。多くの人に、粘り強く‘食べて応援’してもらいたい。

取材風景(左:牧野悦子さん/右:赤石正樹さん)
生産物大和芋(ヤマトイモ)
取材対象赤石正樹さん(あかいし農園株式会社)
所在地熊谷市妻沼小島2027
Webhttps://akaishi-noen.com/
https://www.instagram.com/akaishinoen/
市内で買える場所JAくまがや、ふれあいセンター妻沼店