利根川の恵みと職人の技が生む、熊谷の極上ねぎを味わう

利根川の恵みと職人の技が生む、熊谷の極上ねぎを味わう|晴れまちFARM|埼玉県熊谷市

「ここのねぎは、ひと味違う」―そう話すのは永井太田地区で代々農業を営む田沼さん。
熊谷の気候と土壌が生み出すねぎのおいしさは、一度食べたら忘れられないという。
厳しい寒暖差が生む甘さ、豊かな土がもたらす香りと風味。熊谷だからこそできる、特別なねぎの秘密に迫る。

聞き手:牧野悦子さん(熊谷在住・野菜ソムリエ)

生産者・田沼唯利さん

熊谷市の北部、利根川の南に位置する永井太田地区は昔から農業の盛んな場所。
今回、紹介する田沼唯利さんはこの地で50年以上にわたり米麦や野菜を育てる農家の18代目。
高校卒業後、家業の農業を継ぎ、土壌にあわせて農作物を作り、時代のニーズに対応しながら現在は主に長ねぎを生産している。
夏場のねぎ栽培は難しいといわれているが、田沼さんは四季を通じて生産、供給しており市場の信頼も厚い。
「最近の気候は昔とは全然違う。今までの経験が通用しないときもあるが、長年の勘で天候を読みながら丁寧に育てている」と優しい口調で話す。
田沼さんの作るねぎは美しくうまいと評判が良く、多くのファンを抱えている。

熊谷野菜 ねぎ生産者・田沼唯利さん|晴れまちFARM
熊谷野菜 ねぎ生産者・田沼唯利さん|晴れまちFARM

人となり

今では‘ねぎの先生’とも呼ばれ、地域のねぎ農家への栽培指導を行う田沼さんだが、ねぎ生産を始めた当初は苦労の連続だったとか。
「野菜の手入れのほとんどは手作業。効率が悪い。特にねぎの定植は鉛筆ほどの苗を1本1本、土にさして植えていくので、とても手間がかかったんだよ」と笑顔で振り返る。
昭和から平成の時代が移ると、徐々に野菜生産の機械化が進んだが、その機械にあったねぎ苗の生産までは誰も行っていなかった。
そこで30才を迎えた田沼さんは機械メーカーや普及員と相談しながら‘苗をつくる’ことに注力。試行錯誤しながら、今の妻沼のねぎ苗栽培のマニュアル化、苗植えの効率化に貢献した。「昔10日かかっていた作業が機械化により1日で終わるようになって、品質が向上した」と懐かしそうに話してくれた。

田沼さんのこだわり ─ その1

ここでおいしいねぎが育つわけを田沼さん伺うと、「利根川の氾濫でできた土壌は適度な砂を含み、水はけが良いので根腐れしにくい。
だから健康なねぎが育つんだよ」と教えてくれた。
田沼さんのねぎ畑で土をつかむとややしっとりとした質感で、握ると団子状になるのだが、指で触れるとすぐにほぐれるやわらかい印象。
まさに団粒構造でねぎに適した畑であることがわかる。
きれいにねぎへ寄せられた土は自然な傾斜でねぎを頂上とした山になっている。
この土の山が白く長く、やわらかいねぎを作っているのだ。‘畑に草を生やさないのがモットー」’というだけあって、田沼さんの畑には草がない。
良いねぎが育つのは土質だけではないことがわかるプロの仕事っぷりを感じる圃場だった。ねぎの姿も美しいが、畑も美しい。

熊谷野菜 ねぎ生産者・田沼唯利さん|晴れまちFARM

田沼さんのこだわり ─ その2

利根川の恩恵を受けているとはいえ、安定した品質のねぎを作り続けるのは、容易ではない。
「美味しいねぎを作るのに一番大切なのは土作り」と田沼さんは力強く語る。
昔からねぎ生産と平行して米や麦を栽培していたそうだが、米作り、水田のあとに野菜を育てることで作物の根が張りやすく元気な農作物をつくることができるという。
また、麦や緑肥を活用し、土壌改良を行いながらよりよい作物をつくる努力を欠かさない。

熊谷のねぎ|熊谷野菜|晴れまちFARM

熊谷で描く未来

田沼さんか育てているのは、作物だけではない。前に述べた、‘ねぎの先生‘と言われる所以がここにもある。
熊谷市担い手育成塾の指導農家であり、若手農家の研修の受け入れに積極的だ。取材時も研修生が田沼さんを慕い、指導を受けていた。また種苗会社からの依頼で新しい種類の野菜のテスト栽培も行う。
「自分でやってみないと納得しないから」と笑って話してくれたのだが、その実、後継者を育てるのも、新しい野菜を作ってみるのも全てはここでの農業を絶やしたくないとの想いからだ。田沼さんの想いと技術はこうして繋がっていく。

田沼さんは‘出荷する時に一番よいねぎであること’を常に心掛けてるそうだ。
ねぎも植物、生き物である。天候の変動、日々変わる状況に対応しながら‘いつものねぎ’を作るのは容易なことではないのだが、田沼さんは淡々とよいねぎを作り続けている。
数々の困難を乗り越え、「今は楽しく仕事をすることでみんなが続けられる農業を目指している」のだという。
野菜を育てるのも、土をつくるもの、ひとを育てるもの、人。こんな人に育てられたねぎはおいしくない訳がない。
「ここのねぎは、ひと味違う」いや、そうではない。
ここで育ったねぎは、ひと味も、ふた味も違う、滋味深いねぎである。
この地、熊谷で育った美しいねぎをぜひご賞味あれ。

晴れまちFARMの取材(田沼唯利さん・牧野悦子さん)
取材風景(左:牧野悦子さん/右:田沼唯利さん)
生産物長ねぎ
取材対象田沼唯利さん
所在地熊谷市永井太田419-1