
食卓に秋の訪れを告げる味覚といえば「栗」。
厳しい暑さを乗り越えた大地に秋風が心地よく吹き始める9月。熊谷の直売所には地元の栗を求めて多くの客が訪れる。今回訪問したのは59年前に両親が栽培を始めた栗を守り育てる志村武さんの圃場。足元には丸々と実った栗が転がる。木の間から差し込む光に照らされ艶やかに輝く栗は、さながら小さな太陽のよう。そんな栗を我が子のように育てる志村さんから生産者だけが知るおいしさの秘密や栗の魅力をたっぷり伺った。
聞き手:牧野悦子さん(熊谷在住・くまがや食応援大使)
生産者・志村 武さん
熊谷市南部の江南地区一帯は緩やかな丘陵地が広がり果樹などの生産が多いエリア。「水はけのよい土壌が特徴で栗栽培には適した場所」と語るのは江南栗生産出荷組合に所属する志村武さん。「特別、栗が好きというわけではなかったんですよ」と笑う志村さんだが、両親の代から受け継いだ畑を守るため、18年前に前職を早期退職し本格的に栗栽培に取り組むことを決めた。現在は 1.4ヘクタールの畑に約400本の栗の木を育て、年間1,300kgの栗を出荷している。


朝の栗拾いから出荷まで続く丁寧な手仕事
志村さんの栗畑や栗はとても美しい。栗のイガは畑でまとめられ、葉は適度な間隔で風にそよぎ、木が喜んでいるように見える。「栗の収穫は朝。熟して落ちた実を、日差しが強くなる前に拾うんだよ」と志村さん。栗は光にさらされると変色してしまうため、鮮度を守る工夫が欠かせない。栗は木からもがず、自然に落ちた実を収穫するのが基本。午前中の栗拾いから午後の選別、保管、出荷まで、一粒ずつ手と目で確かめながら妥協のない作業が続く。木や実をじっと見つめるその姿からは、栗への深い愛情と、栗を心待ちにするお客様への想いが伝わってきた。
熟成の工夫で生まれるおいしさとは
志村さんの畑には、早生(わせ)の‘丹沢’、‘ぽろたん’、中生(なかて)の‘利平’、‘筑波’、晩生(おくて)の‘石鎚’などの栗の木がある。種類によって熟す時期が変わり、9月初旬から10月半ばまで市内JAの直売所や県外の菓子店等へ出荷している。「ホクホクの利平は茹で栗で楽しむのが好きかな。ぽろたんは鬼皮、渋皮がむきやすいので人気の品種。焼き栗にすると美味しいよ」と笑顔の志村さん。続けて「ぽろたんは0~1℃の低温で貯蔵するとぐっと甘くなるから、1ヶ月間冷蔵庫で熟成させてから出荷している」と保管中の栗を見せてくれた。サイズが大きく手からこぼれそうな栗たち。今から店頭に並ぶのが待ち遠しい。


品質の秘密は冬の剪定にあり
「栗の出来を左右するのは、冬の枝の整え方なんだよ」と志村さん。
栗の品種に合わせて枝の仕立てを工夫することで、品質の向上を図っている。一般的な栗の木は枝が横に広がる樹形だが、ぽろたんは直立型に仕立てるのが特徴。「この形にすると剪定がしやすく、管理が隅々まで行き届いて、よい実が育つんだ」と話してくれた。良い栗を見分けるポイントは「ツヤがあり、手に取るとずっしり重いもの」。志村さんは「お客様に損をさせない=信頼を裏切らない品質の栗を届けたい」と、一年を通して木々と向き合っている。

熊谷の栗を地域へつなぐ
直売所では、連日完売するほど志村さんの栗は人気が高い。入荷を心待ちにするお客様も多く、リピーターやファンに支えられている。江南地域には59年続く栗の生産出荷組合があり、現在は39名が所属。栗栽培に適した土壌はもとより糖度を高める熟成技術や品質管理で美味しい栗を届ける努力を続けている。志村さんは「熊谷の栗をもっと多くの方に知ってもらい、市内でも食べられるようになったら嬉しい」と栗の活用に飲食店や菓子店、その他加工の事業者に期待を寄せている。熊谷ブランド「晴れまち」の連携で熊谷の栗を楽しめる、新しい商品や取り組みが生まれる日が近いかも知れない。

栗で秋の食卓に笑顔を
「いもくりなんきん」と言われるように、栗は女性に人気の食材。
おせち料理の栗きんとんや栗ご飯、渋皮煮はもちろん、最近ではスイーツやパン、グラノーラなど幅広く活用されている。その黄金色の実と豊かな甘みは、食卓をほっと温かく、食べる人を笑顔にする。「毎年楽しみにしてくれるお客様のために、できるだけ長く栗を届けていきたい」と志村さん。ぜひ今年の秋は、丹精込めて育てられた熊谷の栗を手に取り、そのおいしさをさまざまな料理で味わってみてほしい。

生産物 | 栗 |
取材対象 | 志村 武さん |
所在地 | 熊谷市野原1186 |
市内で買える場所 | JAくまがや直売所、ふれあいセンター江南店 |