
2026年、新たに指定野菜※1として加わることでも話題の「ブロッコリー」。
ここ熊谷でも、生産が盛んに行われていることをご存じだろうか。秋から冬、そして春まで長く楽しめるブロッコリーは、熊谷の風土と相性の良い野菜のひとつ。
今回訪れたのは自然豊かな江南地区。市街地の喧騒を抜け、雑木林と畑がゆるやかにつながる里山の風景が広がる。その一角に、お話を伺った吉田一豊さんのブロッコリー畑がある。ここには、食卓に並ぶ前のブロッコリーの、いちばんいい表情があった。
聞き手:牧野悦子さん(熊谷在住・くまがや食応援大使)
※1 指定野菜とは、野菜生産出荷安定法に基づき、国民の消費量が多く、安定した供給が特に必要とされる野菜として、国(農林水産省)が定めたもの。2026年度からは新たにブロッコリーが加わり、指定野菜は15品となる。熊谷市は、その中でも「春ブロッコリー」の指定産地に位置づけられている。
生産者・吉田一豊さん
現在、南部露地野菜出荷組合の組合長を務める吉田一豊さんは、定年を機に地元・熊谷へUターンし、農業の世界に飛び込んだ。
親から受け継いだ約2ヘクタールの農地を、ほぼ一人で管理している。
主力品目はブロッコリー、とうもろこし、長ねぎの三つ。連作障害を避けるため輪作を取り入れ、畑の力を引き出す栽培を続けている。取材中も終始明るく快活で、畑を歩く足取りは軽やか。積もった落ち葉を踏みしめる音さえ、どこか楽しげに響く。
「農業はね、きついことなんてないよ。むしろ面白い」。そう笑顔で話す吉田さんの言葉から、今の充実ぶりが自然と伝わってくる。


畑で汗をかく、その先にある楽しさ
秋のブロッコリー作業は、早朝3時から始まる。頭にカンテラをつけ、畑を照らしながら収穫するのが日常だ。一方で、冬の寒さは厳しく、朝のブロッコリーは凍ってしまうため、収穫は昼から行うという。自然のリズムに合わせた暮らしだが、「サラリーマン時代には経験できなかった楽しさがある」と吉田さんは話す。
「農業で流した汗で、一日の終わりに飲む一杯が最高のご褒美になる」。そう語る表情には、思わずこちらも頬が緩む。趣味の登山で鍛えた足腰と精神力が、長時間に及ぶ作業を支えている。「自然に囲まれて、空気がうまい。朝焼けの美しさも最高だよ」。その言葉からは、仕事としてだけでなく、生き方として農業と向き合っている姿勢が伝わってくる。
野菜の声を聞く 収穫の技
畑に並ぶブロッコリー。同じタイミングで植え付けた苗でも、生長具合は一つひとつ微妙に違う。収穫の見極め時を尋ねると、「野菜が『収穫してくれ』と呼ぶんだよ」と吉田さんはにっこり笑う。
葉に覆われたブロッコリーの“表情”を瞬時に見極め、左手で花蕾をやさしく包み込み、右手に携えた収穫専用の包丁で軸をカット。さらに軸についた葉をリズムよく落としていく。その一連の動きに無駄はなく、数秒後には美しいブロッコリーが手に残る。
収穫の判断は、まず目で全体の締まりを確認し、次に手で触れて重さや弾力を確かめる。迷ったときは、包丁の柄につけた目印を定規代わりにするという。これらを瞬時に判断できるようになることを、吉田さんは「野菜の声が聞こえるようになる」と表現する。長年の経験と観察眼がなせる、まさに職人技だ。


愛情が味をつくる
「結局は愛情かな。」吉田さんが何より大切にしているのは、作物への向き合い方だ。ブロッコリーを「生き物」と捉え、声をかけるように畑と向き合う。
良いブロッコリーの条件は、花蕾が硬く、きゅっと締まり、きれいなドーム型をしていること。切り口がみずみずしいのも、鮮度の証だ。吉田さんの畑で育つブロッコリーは、どれも生き生きとしている。
現在は、圃場や収穫のタイミングに合わせて3種類の品種を使い分け、さらに同じ圃場内でも植え付け時期をずらすことで収穫期を分散。ピーク時でも1日およそ1000個を、無理なく収穫できる体制を整えている。手間と愛情をかければ、作物は必ず応えてくれる——それが、吉田さんの信念だ。

主役になれるブロッコリー
今回、吉田さんの採れたてブロッコリーを使わせていただき、「ブロッコリーのふらい風」を作ってみた。
生のブロッコリーを細かく刻み、地元産の小麦粉と合わせて、お好み焼き風に焼き上げる。
ひと口食べると、軸はホクホク、花蕾はシャクシャクと軽やか。噛むほどに、ブロッコリー本来の甘みがじんわりと広がっていく。
吉田さんのおすすめは「さっと茹でて、マヨネーズをつけて食べる」シンプルな食べ方だが、調理法を変えることで、ブロッコリーは立派な“主役料理”になることを実感した。

ちなみに、ブロッコリーの茹で加減は好みが分かれるところ。
シャキッと歯切れのよい「かため派」か、甘みが際立つ「やわらかめ派」か。
私はかため派で、熱湯で2分弱茹でたあと、水気をしっかり切るのがおすすめだ。
一方、蒸し焼きにすると味が凝縮してコクのある仕上がりになる。あなたは、どちらがお好みだろうか。
ぜひ熊谷産ブロッコリーで、自分だけの“いちばんおいしい食べ方”を見つけてほしい。

物語ごと味わう、熊谷産ブロッコリー
熊谷・江南の里山の風景、夜明け前の畑の静けさ、そして吉田さんの技術と愛情。そのすべてが詰まっているのが、熊谷産ブロッコリーだ。単に地元産だからではなく、背景にある物語を知ることで、ひと口の味わいはぐっと深まる。店頭で熊谷産ブロッコリーを見かけたら、ぜひ手に取ってみてほしい。きっとその向こうに、あの朝3時の畑と、野菜と対話する農家の姿が思い浮かぶはずだ。

| 生産物 | ブロッコリー |
| 取材対象 | 吉田一豊さん 南部露地野菜出荷組合組合長 |
| 所在地 | 熊谷市須賀広 |
| 市内で買える場所 | JAくまがや、ふれあいセンター江南店 *出荷組合の生産者による納入先 |
