野菜づくりの主役は“土” 妻沼の土壌で育つ甘くてやさしいにんじん

熊谷市指定野菜ニンジン|熊谷晴れまち

私たちの食卓でおなじみの野菜といえば「にんじん」。
実は熊谷市は県内有数のにんじん産地で5~6月に収穫期を迎える「春にんじん」は主力の作型である。初夏の風にゆれる葉が、まるで緑の絨毯のように広がるにんじん畑はなんとも心地いい風景である。
伺ったのは豊かな土壌と広々とした畑が広がる妻沼地域。多くの農産物を育む土地のひとつである。空の広さを感じる畑の風景の中で収穫されていたにんじんは、鮮やかなオレンジ色の向こうに、想像以上に奥深い“土の物語”を秘めていた。

聞き手:牧野悦子さん(熊谷在住・くまがや食応援大使)

生産者・定方翔吾さん

今回取材したのは熊谷市永井太田地区で農業に取り組む定方翔吾さん。60~70年続く野菜農家の3代目である。
穏やかな笑顔と柔らかな話し方が印象的な若手農家さんで、もともとは福祉の仕事に携わっていたそう。退職後に家業を手伝う中で農業のやりがいや魅力に惹かれ、本格的に農業の道へ。その後、埼玉県農業大学校で学び、現在はにんじんのほか、かぶ、ねぎ、小麦、米など妻沼地域を象徴する品目を栽培している。
訪問した5月下旬はにんじん収穫から麦刈り、田植えと大忙しの時期。ご家族で力を合わせ地域の風土を活かしながら、日々土と向き合い、より良い野菜づくりに取り組んでいる。

熊谷晴れまち「ニンジン」生産農家・定方翔吾さん

畑から食卓へ ―
「にんじん」が届くまで

お話しを伺ったのはまさににんじん収穫作業中の圃場。トラクターを使ってゆっくりと土を掘り起こし、丁寧ににんじんを抜き取る。そして手早く葉を切り取り、コンテナの中へ。
定方さんが育てるにんじんは、約50アールの圃場で栽培され、年間収量は約30トン。今回収穫していたのは、甘みが強く鮮やかな色合いが特徴の「彩誉(あやほまれ)」だ。畑での収穫が終わるとすぐに作業場へ向かい調整作業。コンテナからにんじんを洗浄機へ移し、約8分間洗うという。みるみるうちに泥つきにんじんが美しいオレンジ色に輝き、作業場はにんじんのよい香りが漂った。
「にんじんは甘いし、見ていて楽しくなる色ですよね」と話す表情からも、その魅力と翔吾さんのにんじんに対する愛情が伝わってくる。

よいにんじんが作れるのは
土のおかげ

鮮やかな橙色の姿になったにんじんは等級ごとに分けられ出荷される。
きれいに並べられたにんじんはまさに「箱入り娘」といった感じである。ここで翔吾さんによいにんじんの見分け方を伺うと、「葉の切り口が細く、根の先端に丸みがあるものがよい」と教えてくれた。定方さんちのにんじんはぷっくりと丸みがあり、肌ツヤもよく、みるからにおいしそうである。続けてにんじん作りの勘所を伺うと、「よいにんじんができるのはこの地域の土のおかげ」と話してくれた。
インタビュー中、翔吾さんからは“土”と言葉が何度も出てきた。よい作物を作る上で土壌は欠かせないキーワードであるようだ。

熊谷晴れまち「ニンジン」

土を育てることが、野菜を育てること

永井太田地区は北側に利根川が流れ、肥沃な大地が広がる。
「この辺りはにんじんなどの野菜と米麦の栽培を輪作することができる土質で、作物が育ちやすく連作障害を防げる」と翔吾さん。また米のもみ殻や麦わらを畑に入れることで土壌改良ができ、作物によい影響を与えることができるという。
「畑が変われば土も変わる。その性質を見極めて土も野菜も育てている」と力強く話してくれた。
圃場の土は保水性があり適度なやわらかさで、にんじんが喜んでいるように見えた。
今シーズンのにんじん栽培は冬の小雨で苦労があったそうだが、米や麦など作物を多品目作っているからこそできる土作りと畑の管理で今年もよいにんじんが仕上がっている。

熊谷市指定野菜「ニンジン」

笑顔になるにんじんを次世代へ

野菜嫌いの子どもが多いと言われる中で、翔吾さんが嬉しそうに話してくれたのが、家庭でのエピソード。
定方さんが育てるにんじんは、「子どもたちにおいしく食べてもらいたい」という想いも込められているそうだ。
夕食には奥様の未貴さんが作る “フライドにんじん(スティック状のにんじんに下味をつけ片栗粉の衣をつけて揚げたもの)”が食卓へ並ぶこともあり、子どもたちはよろこんで食べてくれるという。「子どもに野菜を食べてもらうのは親として大変なこと。だから、にんじんをたくさん食べてくれた日はラクができたと思えるんです」と笑う翔吾さん。
その言葉からは、生産者としてだけでなく、親としての優しいまなざしも感じられた。

定方翔吾さんの育てたニンジンでつくる「フライドにんじん」

おいしさの先に見えた農業の未来

取材の最後に、これから先の農業について伺うと、翔吾さんは「特別なことではなく、安定して作り続けていくことが大切」と話してくれた。
毎年変わる気候や自然条件の中でも、品質を維持しながら野菜を作り続けることは簡単なことではない。けれど、土を育て、畑を守り、次の季節へとつないでいく。その積み重ねこそが地域農業を支える力なのだろう。
作物だけではなく、畑そのものを育てていく姿は、まさに熊谷野菜を未来につなげる【THE妻沼Farmer】であった。
翔吾さんのにんじんを“フライドにんじん”にしていただいた。にんじんの香りが口に広がる甘くてやさしい味がした。

インタビューを受ける定方翔吾さん(ニンジン農家)熊谷晴れまち
取材風景(左:牧野悦子さん/右:定方翔吾さん)
生産物にんじん
取材対象定方翔吾さん(定方農園)
所在地熊谷市永井太田