
熊谷の夏は暑く、太陽は容赦なく大地を照りつける。そんな強い日差しに負けずに実る果実、青紫のブルーベリーは静かに輝く。取材したのは8月初旬のある朝。「実は小さいけれど、甘さはしっかりとのっている」と愛おしむように果実を見つめながら語るのはブルーベリー生産者の馬場仁さん。かつて養蚕が盛んだったこの土地で、ブルーベリーは地域の希望の実として、今年も実りの季節を迎えている。今回は江南の風土と人の手が育む、熊谷のブルーベリーの魅力をお届けする。
聞き手:牧野悦子さん(熊谷在住・くまがや食応援大使)
生産者・馬場 仁さん
熊谷市南部、荒川を渡った先に広がるのどかな田園地帯――そこが、江南地区。遠くには比企丘陵を臨み、緑豊かな場所である。お話を伺ったのは江南ブルーベリー生産出荷組合の組合長・馬場仁さん。
地域の養蚕業衰退を乗り越えるべく、新たな作物として導入されたのがブルーベリーで、組合が設立されたのは1987年。組合員数は現在20名。馬場さんも養蚕業を営んでいた農家の生まれで、先代から受け継いだ畑で気候と土壌に合ったブルーベリーを、丹精込めて育てている。


真っ直ぐな想いが、美味しいブルーベリーを育てる
馬場さんを一言で表すなら、「実直」という言葉が似合う。取材中、「作物は正直だから」と話しながら、ブルーベリーに触れる手を休めない。よく見ると暑い日なのに青いビニール手袋をはめて作業している。「極力農薬を使用しないで栽培しているので、時には毛虫に刺されてしまう。だから収穫時の手袋は欠かせない。」と馬場さん。手袋を外すと手からぽたぽたと汗が流れ落ちた。愛情を注げば必ず応えてくれる、という作物への信頼と、丁寧に収穫する姿から、「自分が育てたブルーベリーを、みんなに美味しく食べてほしい」という純粋な願いが伝わってきた。
熊谷の暑さと上手に付き合う土づくり
「ブルーベリーは、土と水の管理がとても大切」と話す馬場さん。根が浅く張るブルーベリーの特徴に合わせて、もみ殻や針葉樹の皮を使って保湿し、土を弱酸性に保つ工夫をしている。特に、近年悩みのタネとなっている夏の水不足は大きな課題で、取材時も雨が少ない状況であった。「今年は適度に草をはやすことで水分の蒸散を押さえ根張りをよくしている。」と話してくれた。「適切な水分管理ができれば1cm以上の大きな実になるが、今年は例年より小粒が多い。それでも、甘さが凝縮された“濃い味”が楽しめる。」と馬場さん。この厳しい環境の中で育つブルーベリーは力強い味がする。


自然と向き合う 知恵と工夫
ブルーベリーは、夏の味覚として人気だが、鳥たちにとってもごちそうである。「朝4時台になると、畑にはスズメやヒヨドリなどがやってくる。樹上に糸を張ると、羽根が触れて逃げるんだ。ちょっとしたことだけど大事な工夫だよ」と馬場さん。細やかで地道な努力を続けている。一方受粉は自然のミツバチなどにお任せ。「ブルーベリーは基本的に1品種だけでは実がつかないので他家受粉が必要。ここでも5種類のブルーベリーを栽培し、ハチの力を借りながら栽培している」と説明してくれた。通常6月から9月上旬までブルーベリーの収穫ができるが、時期ごとに違った品種が出荷される。品種は、大粒で人気のハイブッシュ系の「スパルタン」「ダロウ」「チャンドラー」、甘みと酸味のバランスがよいラビットアイ系の「ティフブルー」「バルドウィン」などが生産され様々な味わいが楽しめる。

一粒一粒に宿る初夏の味 ブルーベリーの魅力を届けたい
馬場さんが所属する生産出荷組合の主な出荷先はJAくまがやの直売所で、パック詰めされ店頭にならぶ。また全農青果ステーションを通じた学校給食への出荷も行われ、ジャム等の加工品となり子供たちを喜ばせている。馬場さんが好きなブルーベリーの食べ方を尋ねると「生でほおばるのが一番」と笑顔で話す。「一粒一粒味わいが違うので片手に乗るくらいの粒をまとめて口に放り込むのがおいしい」と教えてくれた。やってみると酸味や甘みが同時に味わえて確かにうまい!「まだまだ知名度は低いが、これから多くに人にこのブルーベリーを広めていきたい」と馬場さんは語る。
一年に一度の味わい 熊谷の夏はブルーベリーで
馬場さんのブルーベリーは、まさに熊谷の夏そのものをギュッと詰め込んだような逸品。代表的な品種「ティフブルー」は、甘みと酸味のバランスが良く、ジャムにぴったり。大粒の「ハイブッシュ系」は、ジューシーでそのまま食べるのが最高である。
ひとくち食べると、口いっぱいに広がるみずみずしい甘さと、爽やかな酸味。それは、太陽の恵みと、馬場さんの愛情、そして熊谷の豊かな大地が織りなすハーモニー。冷凍しておけば、このおいしさを長く楽しむことができる。ぜひ、「晴れまち」のブルーベリーで、熊谷の夏を感じてほしい。

生産物 | ブルーベリー |
取材対象 | 馬場 仁さん 江南ブルーベリー生産出荷組合 組合長 |
所在地 | 熊谷市樋春832 |
市内で買える場所 | JAくまがや直売所、ふれあいセンター江南店ほか |